広重と東海道1

2008年06月13日



(1)「保永堂版東海道五十三次之内大津」について その1
上の写真は、当館所蔵の保永堂版「大津」です。向かって左側に東海道・逢坂越の大谷にある茶店「走井(はしりい)の餅屋」が描かれています。店先の向かって右手に商品陳列棚があり、その向こうに女性が二人、向かい合って座っています。店の奥には、女性の巡礼が二人。一人はあがり框(かまち)に腰を下ろし、一人は背中をむけて立っています。店の表側には、ほとばしるように水が溢れる井筒に「走井」と刻まれており、その前で魚屋が盥(たらい)の水を替えています。
上記の保永堂版が完成したのは天保4年(1832)頃と考えられ、翌天保5年正月には完成してセット売りが始まりました。
さてさて、走井の餅屋の店先が実はキーポイントなのです。

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Posted by otsu-rekihaku at 14:21 コラム

広重と東海道2

2008年06月17日

(2) 「保永堂版東海道五十三次之内大津」について その2
『東海道名所図会』が出版された18世紀後半は、庶民に旅の一大ブームが巻き起こっていたときです。このような図版を多く取り入れた旅のガイドブックが多数出版され、どれもヒットしていました。その原因は、掲載された図が正確だったからということと、鳥瞰図風に描かれているものが多かったのです。日頃見られない視点から描かれた図は、誰にも新たな感動を呼んだことでしょう。



それはさておき本題に移りましょう。『東海道名所図会』走井の画面右下隅に描かれた「坂」のような表現に注目してください(写真上の右下)。その左手に人が荷物を担いで歩いています。「坂」の右側は描かれていません。
結論から言うと、この「坂」のように描かれた段差は、当時、東海道の逢坂越えに造られていた歩道と車道の境に設けられた段差だったと推定しています。それを証明する図柄が、同じ『名所図会』の中にあります。

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Posted by otsu-rekihaku at 10:58 コラム

広重と東海道3

2008年06月21日

(3)ちょっと寄り道 東海道逢坂越えの車道と歩道について
実は、逢坂越えの車道と歩道は、『東海道名所図会』の「逢坂山・関明神・蝉丸祠」の段にも描かれています。よく目をこらさなければ見過ごしてしまいそうですが、写真の左上端部分をごらんください。京都へと向かう逢坂越えの道の、京都に向かって右側に、牛車が歩道より少し低くなった道を進んでいるのが見えませんか。それが、牛車専用の車道だったのです。



次のページに『東海道名所図会』に描かれた車道部分の拡大写真を載せましたので、続きの文章とともにご覧ください。

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Posted by otsu-rekihaku at 13:48 コラム

広重と東海道4

2008年07月04日

(4)浮世絵に見える版元の宣伝その1
浮世絵には、よく見てみると、さまざまな版元や作者の宣伝、ベストセラー祈願の縁起かつぎの文字などが隠されているのに気付きます。今回はその一端を紹介しましょう。
写真下は歌川広重画「人物東海道」シリーズの大津です。嘉永5年(1852)、村田屋市五郎(通称「村市」)が版元となって全56枚が出版されました。風景に重点を置いた保永堂シリーズと違い、人物を中心に描かれているため、旅人などの風俗や建物の細部の構造などを知ることができ、興味がつきません。



さて、大津の宿場では旅籠屋の店先が大きく描かれています。
画面右上隅とその左手に吊り看板が二つ見えます。2枚のうち左手の看板に記された「村市」の文字は、言うまでもなく版元村田屋市五郎の宣伝。
右上隅の看板には家紋のようなものが見えますが、これが有名な広重のトレードマーク「ヒロ印」です。
広重の「広」の文字をカタカナ書きして重ね合わせてあるのがお分かりでしょうか。
この「ヒロ印」は広重画の浮世絵の随所に顔を見せています。

これだけだったらすぐに気付かれるでしょうが、もう一つ、宣伝が隠されています。どの部分でしょうか?




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Posted by otsu-rekihaku at 18:14 コラム

広重と東海道5

2008年07月09日

(5)浮世絵に見える版元の宣伝その2
写真下は前回と同じ「人物東海道」の保土ヶ谷です。画面の左上に「程がや」と書かれていますね。茶店で二人の女性が休憩していますが、見ていただきたいのは左下に描かれた、何枚にも重なった旗です。その旗をじっくり見てください。一番上に広重のトレードマーク「ヒロ印」が見えますね。その下に「歌重」の文字。上から2枚目には「村市」。全部で8枚ある旗には、交互に広重と版元の宣伝の文字が記されているのです。




次ページに拡大写真を載せましたので、ご覧ください。





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Posted by otsu-rekihaku at 12:59 コラム