広重と東海道4

2008年07月04日

(4)浮世絵に見える版元の宣伝その1
浮世絵には、よく見てみると、さまざまな版元や作者の宣伝、ベストセラー祈願の縁起かつぎの文字などが隠されているのに気付きます。今回はその一端を紹介しましょう。
写真下は歌川広重画「人物東海道」シリーズの大津です。嘉永5年(1852)、村田屋市五郎(通称「村市」)が版元となって全56枚が出版されました。風景に重点を置いた保永堂シリーズと違い、人物を中心に描かれているため、旅人などの風俗や建物の細部の構造などを知ることができ、興味がつきません。

広重と東海道4

さて、大津の宿場では旅籠屋の店先が大きく描かれています。
画面右上隅とその左手に吊り看板が二つ見えます。2枚のうち左手の看板に記された「村市」の文字は、言うまでもなく版元村田屋市五郎の宣伝。
右上隅の看板には家紋のようなものが見えますが、これが有名な広重のトレードマーク「ヒロ印」です。
広重の「広」の文字をカタカナ書きして重ね合わせてあるのがお分かりでしょうか。
この「ヒロ印」は広重画の浮世絵の随所に顔を見せています。

これだけだったらすぐに気付かれるでしょうが、もう一つ、宣伝が隠されています。どの部分でしょうか?



縁台に腰かけた女性の向かって右側の柱の上の方を見てください。次ページに拡大図を載せておきました。

広重と東海道4

柱に行灯が隠れていますが、その右手になにやら文字の一部が見えますね。
もうお分かりでしょう。版元「村市」の文字の右端がほんの一部分だけ見えているのです。
本当なら画面の一部を線で区画して、大きな文字を使って宣伝したいところですが、江戸っ子にとってそれは無粋なことだったのでしょう。

画面に描かれた物を巧みに利用して、本来あるべき必然性を持つところに、ひそかに宣伝の文字を隠す。たとえば旅籠屋なら軒行灯や看板に、茶店なら酒旗に、馬なら腹掛に、といった具合。それが「粋」なのです。当時この浮世絵を買った人々も、なにげなく絵柄を見て、その隠された宣伝にふと気付き、ニヤッと微笑んだことでしょう。そんな楽しみも浮世絵にはあるのです。(次号へ続く)


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Posted by otsu-rekihaku at 18:14 │ コラム